D-アミノ酸の美容効果

D-アミノ酸の美容効果イメージ01

D-アミノ酸が食品の呈味に影響を及ぼすだけではなく、食品の生理機能を高めることも研究によって明らかとなっています。その一つが皮膚における美容効果です。

ヒトの皮膚ではL-アミノ酸と共に微量の遊離型のD-アミノ酸が検出されています。真皮と表皮にはD-アスパラギン酸(D-Asp)、D-グルタミン酸(D-Glu)、D-アラニン(D-Ala)、D-セリン(D-Ser)、D-プロリン(D-Pro)が、角層においてはD-Proを除いたD-Asp、D-Glu、D-Ala、D-Serが検出されました。

角層中に検出された遊離D-アミノ酸4種について、含量が加齢に伴いどのように変化するのかも調べられました。その結果、20代から40代にかけて遊離のD-Asp、D-Glu、D-Serが減少すること、D-Glu、D-Alaについては幼少期には皮膚中(角層)に多く存在するものの、加齢によって減少することがわかりました

D-アミノ酸の美容効果グラフ2参考引用文献1より

ヒト角層における遊離D-アミノ酸は加齢によって減少する
(参考・引用文献1より)

ヒト角層における遊離D-アミノ酸は加齢によって減少するグラフ(参考・引用文献3より)
ヒト角層における遊離D-アミノ酸は加齢によって減少する
(参考・引用文献1、2,3より弊社加工)

角層中に検出されたこれらの遊離D-アミノ酸はどのような働きをしているのでしょうか。

まず、D-Aspについては、ヒト細胞を用いたI型コラーゲンに関する研究があります。D-Aspを添加した線維芽細胞を観察したところ、真皮(Ⅰ型)コラーゲン線維束形成が促進されている様子が確認されました。さらに、肌のハリに重要な役割を持つ真皮(Ⅰ型)コラーゲン線維にD-Aspを添加すると、無添加や L-Aspを添加した場合に比べて、線維が太くしっかりすることがわかり、D-Aspに真皮(Ⅰ型)コラーゲン線維束形成の促進効果があることが確かめられました。

D-アミノ酸の美容効果参考引用文献4写真
D-アミノ酸の美容効果イメージ02

別の研究では、D-Alaが、基底膜の主要な構成成分であり基底膜を表皮や真皮に接着させる重要な役割を持つ、ラミニンの産生を促進することが示されています。基底膜とは、表皮と真皮の境界にある薄い膜のことで、表皮を支え、表皮と真皮を繋ぎとめることで柔軟性と強靭性を保つだけでなく、下層から表皮へと栄養を与えたり表皮から下層へと老廃物を排出したりする代謝の役割や、細胞の増殖・分化を制御することで肌の新陳代謝を進める働きを果たしています。

D-アミノ酸の美容効果イメージ03

表皮角化細胞が産生するラミニン量に対する添加アミノ酸の影響を調べたところ、D-Ala、L-Alaは共に濃度依存的にラミニン産生を促進し,D-AlaはL-Alaに比べて約4倍高い産生促進機能を有することが示されました。D-Alaは修復や維持を通じて基底膜の老化を抑え、肌の老化を抑えることにつながると考えられています

D-アミノ酸の美容効果グラフ7参考引用文献1より

D-またはL-Alaを添加するとラミニン5産生が促進される
(参考・引用文献1より)

D-アミノ酸の美容効果グラフ8参考引用文献3より

D-グルタミン酸が肌のバリア機能の回復を促進する
(参考・引用文献3より)

D-Gluについては、肌のバリア機能への効果を解明する実験が行われました。人為的に素肌の表面を荒らした状態を作り、D-Gluを塗る部位と塗らない部位に分けて肌の回復状況を測定したところ、D-Gluを塗った部位は4時間後には肌のバリア機能が回復した一方で、D-Gluを塗らなかった部位は肌のバリア機能が著しく悪化しました。この結果から、D-Gluを皮膚に塗布することで肌あれが改善し、角質のバリア機能が回復することが確認されました。

また、経口摂取した遊離D-アミノ酸が皮膚に到達する可能性を検証する実験も行われています。この経口摂取に用いられた飲料には、前回のコラム「発酵食品中のD-アミノ酸」でお伝えいたしました発酵食品のひとつ、酢(玄米黒酢)が用いられました。遊離D-Ala、D-Asp、D-Gluなどが豊富にバランスよく含まれていた発酵飲料を2か月間摂取した結果、角層中の遊離D-アミノ酸4種の総量は摂取前に比べて約30%有意に増加することが示されました。これらの結果から遊離D-アミノ酸の生理機能を利用する際に経口摂取が有効であることが示唆されました

D-アミノ酸の美容効果グラフ9参考引用文献5より

D-アミノ酸を豊富に含む飲料摂取で角層中のDアミノ酸量が増加する
(参考・引用文献5より弊社加工)

以上の研究結果に基づき、株式会社資生堂からは美容バランス飲料・ゼリー「綺麗のススメ」や化粧品ブランド「AQUALABEL」など、D-アミノ酸を含有させた飲料品や化粧品が販売されるようになりました。

参考・引用文献

  1. 東條洋介,中根舞子,三田真史,浜瀬健司:生物工学会誌,92(12),653-656 (2014).
  2. 「資生堂、D-アミノ酸の新たな美肌効果を発見し、化粧品に初めて応用」
     (株)資生堂 ニュースリリース (2013).
  3. 「D-グルタミン酸が肌のバリア機能の回復を促進」  (株)資生堂ニュースリリース (2016).
  4. 「世界初、D-アスパラギン酸にコラーゲン線維束形成を促進する効果を発見」
    (株)資生堂ニュースリリース (2015).
  5. 「資生堂、D-アミノ酸を豊富にバランスよく含む食材を発見、美容健康食品に応用へ」
    (株)資生堂ニュースリリース (2010).
  6. 芦田豊, 東條洋介, 島田正一郎, 岡村智恵子, 三田真史, 浜瀬健司:Bio Industry28,40-44 (2011).
  7. 東條洋介:ビタミン,94,240 (2020).

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