D-アミノ酸と味覚

コラム「Dアミノ酸と味覚」イメージ1

食品に含まれるD-アミノ酸は、食品の味覚にも大きく関与していると言われています。

アミノ酸と味覚といえば、昆布のうま味成分として知られるL-グルタミン酸ナトリウムを思い浮かべる方が多いでしょう。1908年に東京帝国大学・池田菊苗博士によって昆布のうま味成分として発見されたL-グルタミン酸はその後、うま味調味料L-グルタミン酸ナトリウムとして開発され、現在では世界中で広く用いられるようになっています。

他のL-アミノ酸、D-アミノ酸の味はどうなのでしょうか。実は、L体とD体では呈味が異なっていて、L-グルタミン酸以外のL-アミノ酸の多くは苦味であり、D-アミノ酸の多くは甘味を呈することが明らかとなっています(表)。

 表 L-アミノ酸とD-アミノ酸の味の違い
アミノ酸 略号 L型の味 D型の味
アラニン Ala 甘味 強甘
アルギニン・HCl Arg・HCl 微苦(後味良し) 弱甘
アスパラギン Asn 苦味or無味 弱甘
アスパラギン酸・Na Asp・Na 微苦 無味
システイン Cys 苦味or甘味 甘味or苦味or酸味
グルタミン Gln 弱旨味 甘味
グルタミン酸・Na Glu・Na 旨味 微甘or無味
ヒスチジン His 苦味 甘味
イソロイシン Ile 苦味 甘味
ロイシン Leu 苦味 強甘
リシン(リジン) Lys・HCI 弱甘→苦味 弱甘
メチオニン Met 苦味 甘味
フェニルアラニン Phe 微苦 甘味
プロリン Pro 弱甘 微苦
セリン Ser 微甘 強甘
トレオニン(スレオニン) Thr 微甘(後味悪い) 弱甘
トリプトファン Trp 苦味 強甘
チロシン Tyr 微苦or無味 甘味
バリン Val 苦味or無味 強甘

(参考・引用文献2,3,4より 弊社作成)

D-Ala、D-Phe、D-TrpなどはそれらのL型アミノ酸とは異なり、かなり強い甘味性を示します。以前のコラム「遊離型/組織型のD-アミノ酸①」でお伝えしましたように、甲殻類や貝類は浸透圧調整(オスモライト)のために生体内に高濃度のD-Alaを含みますが、カニやエビを食した際に感じる甘みはD-Alaに由来するものであると言われています。

食品に含まれる濃度のD-アミノ酸が食品の味にどのような影響を与えているかを調べた研究報告があります。その研究では、まず市販の醤油、味噌、チーズ、それぞれ8商品、計24品目に含まれるD-アミノ酸の濃度を測定しました。測定した24品目すべてにおいてD-アミノ酸が検出され、その中でD-アミノ酸総含有量が最も低かった商品のD-アミノ酸濃度を、味覚試験に用いるD-アミノ酸濃度としました。

続く味覚試験では、酸味、苦味、塩味、甘味、うま味、5つの基本味溶液を調整してD-アミノ酸を添加し、添加前後の味質の変化について、その味を感じる強さと持続時間を官能評価しました。その結果、D-Aspは酸味と苦味の強さを抑制し、D-Gluは塩味の強さを抑制し、D-Proは甘味と旨味の持続時間を強化することが明らかにされました。また、D-Asp、D-Glu、については、L体の同じアミノ酸を加えた場合よりもその効果が大きいことも示されています。

コラム「Dアミノ酸と味覚」味覚試験イメージ

また、日本酒に関するD-アミノ酸が味に与える影響についての研究報告があります。この研究では51の醸造会社の141種類の日本酒について、含まれるD-及びL-アミノ酸を定量し、さらに色沢や香り、味などの官能評価試験を行っています。その結果、日本酒中に含まれているD-アミノ酸のうち、D-Ala、D-Glu、D-Aspが高濃度に含まれている日本酒は味や総合評価が高くなることが明らかとなりました

日本酒中のD-アミノ酸濃度と得点(味+総合評価)の関係
参考・引用文献7より引用、弊社加工

さらに、味や総合評価が低く、D-およびL-アミノ酸の濃度が低かった日本酒に食品添加物として認められているDL-Alaを添加したところ、L-Alaを添加した場合と比較してより低濃度でうま味が向上すること、DL-Alaは日本酒の香りには影響を与えないことが認められました

味や総合評価の低い日本酒へのDL-AlaまたはL-Alaの添加濃度と得点(味+総合評価)の関係
参考・引用文献7より引用、弊社加工

コラム「Dアミノ酸と味覚」イメージ2

他にも、煮込み料理などを寝かせた時に感じる「こく」にもD-アミノ酸が関係することが見いだされ、D-アミノ酸を含有した「こく味調味料」が市販されています。

発酵熟成することによってさらに複雑で豊かな味わいになる発酵食品、その味にD-アミノ酸がかかわっていることにも注目していただけたらと思います。

参考・引用文献

  1. 河合美佐子:生物工学,89,679-682 (2011).
  2. 牟田口祐太,大森勇門,大島敏久:化学と生物,53, 18-26 (2015).
  3. 小俣靖:“美味しさ”と味覚の科学,日本工業新聞社出版局,(1986).29, 1-6 (2012).
  4. 左右田健次:化学,32, 57 (1977).
  5. 阿部宏喜:生化学,80,308-315 (2008).
  6. 井上裕,岡部唯,鈴木理恵,尾中孝,木田隆生:Trace Nutrients Research31,59-65 (2014).
  7. 老川典夫:日本醸造協会誌,10,189-197 (2015).

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